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注:本記事ではICL(= Implantable Contact Lens)は目の中に移植できる小さなレンズ及びそれを用いた治療のことを指します。専門家による記事ではないため。間違いを含む可能性もあります。治療を検討する際はICL、眼内コンタクトレンズ、有水晶体眼内レンズ、フェイキックIOLなどのワードを使って信頼出来る情報を探してください。

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ICLの手術を受けた。

ICLとは、簡単に言ってしまえば、目の中にコンタクトレンズを入れる治療のことだ。レーシックよりも高額ではあるものの、角膜を削らずに済む、強度近視にも対応可能であるなど、いくつかのメリットがある。私は強度近視かつ強度乱視でもあるため、レーシックは適応外だったが、ICLなら治療を受けることが出来た。数年悩んだ末に手術を受け、今のところ大きな問題は無く普通に過ごせている。周囲でこの治療を受けた人が少しずつ出てきたこと、所謂コロナ禍で旅行や遊びに使うお金が浮いたこと、また子供の頃から診てもらっている眼科医に相談して「あなたの目には合っていると思う」と背中を押されたことなどで条件が揃い、ICLをやらない理由が見当たらなくなったため、この春に治療を受けることに決めたのである。

ICLに関する(私の中での)一番大きな懸念は乱視に関係していて、乱視用のレンズは目の中で回転してしまうと再手術になってしまうというものだった。そのため、保障期間がある程度長めかつ症例実績の多い病院を選んで予約をし、一週間のコンタクト禁止期間の後に適応検査を受けた。ずらりと並んだ検査機器に順番に腰掛け、視力はもちろんのこと、角膜の厚さや細胞の数、眼圧、瞳孔のサイズ、目の形、矯正時の最大視力など様々な数値を測定し、特に問題がなさそうであれば更に散瞳薬を使った眼底検査と医師の診察を受ける。今まで何度もメガネやコンタクトを作ってきたが、あんなにもたくさんの検査を受けたことはなかった。数日後にレンズの入荷時期が分かると言われていたのだが、なぜか当日の夕方には電話がかかってきてすぐ届くと言われ、約一週間後に手術をすることになった。在庫の有無によって手術までの期間が大きく変わってくるらしいので、運が良かったのかもしれない。

さて、労働を繰り返していればあっという間に手術当日である。

適応検査の日に渡されたあまり美味しくない抗菌目薬を4回×3日間さし続け、景気付けにラーメンを食べてから病院に向かった。受付を済ませるとすぐに準備が始まり、5分くらいの感覚を空けながら確か6回くらい点眼をされた。その後部屋を移動して更に5回ほど麻酔を含む点眼をし、ここからはメガネをしていなかったのでよく見えていなかったのだが、眼にペンのようなもので印をつけられたようだった。おそらくレンズの角度を調整するためのものだと思う。私服のままで手術室に入り、目蓋を固定されたり消毒液をかけられたりと準備が進むにつれて、これは結構ハードな手術であるということが分かってきた。というのも、点眼されながら受けた説明で「目が動くとレンズをうまく調整できないから、出来るだけ力を抜いて一点を見つめていて」と言われていたのだが、散瞳薬で瞳孔を全開にしているため手術用のライトが非常に眩しく感じられて、それを直視し続けるというのはこの日一番の苦痛を伴う行為だったのだ。目に切り込みを入れられるのも、レンズを挿入されるのも、麻酔のおかげかそこまで痛くなかった。レンズが目の中に入って開く様子はまるで万華鏡を覗いているかのようだったし、固定のために目の中をいじられるのも違和感こそあれ辛くはなかった。だと言うのに、眩しさから来る頭の締め付けと体の緊張は、予想外に耐え難いものであった。

術後の状態は人によって様々らしい。私の場合は正面以外を見ると目が張るような感覚があって、視界もピントは合っているものの光が拡散しているように見えていた。もしもこの見え方のままで一生を過ごすことになったらどうしたら良いのかと不安を抱えながら帰宅し、恋人に「怖かったし見え方も変だし疲れたしもう無理!」とだけ伝えて眠ったように思う。そんな感じだったので、翌朝目覚めてある程度クリアになった世界と対面した際には、感動よりも先に強い安心を感じた。視界は手術当日よりもクリアになり、少しの違和感と乾いた感じがあるだけ、という程度に落ち着いていたし、翌日検診でも一週間後の検診でも特に問題は指摘されなかった。二週間も経てばすっかり慣れて普通に過ごせるようになったので、術後不安になりすぎる前に眠ってしまえたのは良かったように思う。また、術後一週間は洗顔や運動などにも制限があり、何よりあまりかわいくない保護メガネをかける必要があるため、コロナ禍であまり外に行けない状況は気が楽で良かった。

特に大きな問題はないと書いたが、慣れるまで困ったことが一つだけあった。両目ともに2.0まで見えるようになってしまい、本やスマホなど近くを見るのが疲れるようになったのだ。強度近視だった人間にはよくあることらしく、すぐに慣れると言われたし、実際二週間目には慣れた。これは、近くを見ること自体に慣れたのもあるし、姿勢が少し良くなって疲れにくくなったのもある。今まではディスプレイに近づいて作業をしていたため常に少し前のめりだったのだが、最近はもう少し理想的な姿勢で作業をすることが出来るようになった。

手術から約一ヶ月ほどが経過して違和感もほぼ無くなり、今のところICLは良いお金の使い方だったと思えている。今はただただ、この新しい目で旅行も遊びも思い切り楽しめる日が一刻も早く訪れるようにと、心の底から願うばかりである。