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深夜3時。目を閉じて乳を吸う乳児を眺めながら、自分が深夜の暗い部屋を怖がらなくなったのはいつのことだろうかと物思いにふける。窓の外から微かに聞こえるてんとんてんという謎の音。ぐずる子を抱いて狭い部屋を歩き回る儀式めいた動き。どれもこれも、小さな自分は怖がっていたであろうことばかりだ。夜を怖がらないことも、子の泣き声だけで起きることも、人生のあるタイミングでは不可能だと思っていたことが今自然に出来ていて、意外な喜びがある。

子は育つ。勝手に育つ。毎日ミルクを吐き、たまに排泄物を撒き散らしながらも日増しに大きくなり、出来ることが増え、感情も感覚も爆発的に広がっていく。産前も産後も親になった実感を持てずぼんやりとしていた私を横目に、新生児はあっという間に乳児になってしまった。あまりの速度に驚き、既に新生児の時期を懐かしむ気持ちすら芽生えてくる。私は生活の変化に弱く、0歳児との生活にも最初は戸惑いを感じていた。そもそも細切れの睡眠が辛かった。それでも置いていかれないようにとあれやこれやと世話を焼き、様々なことを調べ、子を観察するうちに、こちらも最近ようやく親であることに、新しい生活に慣れてきたような気がする。先月「行動は感情に先立つ、と信じて生きている」と書いたが、生活の変化が行動の変化を引き起こし、今の感情があるのだろう。子の方も私たちと過ごすことに少し慣れて、お互いに心地よい生活の形を探り合っている。

子どもとの暮らしは変化に事欠かないが、親になったからといって今までの生活すべてを捨てなければならないわけではない。先日初めて人に子を任せて、夫と二人で映画を観てきた。友達にも遊びに来てもらっているし、子連れでカフェに行ったりもする。育児を通して親も変容するのは当然だが、子との時間と他の喜びとを程よいバランスで楽しめるようになれば、自分にとって大切なことはある程度続けられるように思う。かといって変化自体も悪いものではない。子はかわいいし、子を愛する夫も愛おしい。変化に負けないと同時に、変化そのものを楽しむ、そういう大人の姿を見せつづけたら、大人になることを悲観せずに育ってくれるかもしれないと思うから、これからも多くを諦めることはせずにいきたい。

未だ言語を持たないこの子も、いずれは夜を怖がり、そして夜を楽しむようになる。はやく一人で生きていけるようになってほしいと願いながら、そうなった時に抱きしめるための思い出をひとつひとつ拾い集めて、乳児との日々を過ごしている。

あかちゃん関連で読んだ本。

『ジーナ式 カリスマ・ナニーが教える 赤ちゃんとおかあさんの快眠講座 改訂版』 / ジーナ・フォード / 高木千津子
『家族そろってぐっすり眠れる 医者が教える赤ちゃん快眠メソッド』 / 森田麻里子・星野恭子

所謂「ネントレ」について勉強をして、ある程度納得できたのでスケジュールに則った生活をしてみている。睡眠や生活リズムについては個人差が大きそうなので、スケジュール通りにいかなくても悩みすぎないようにはしているが、夜間授乳が早めに終わればいいなあと数カ月後の生活に期待している。

『母ではなくて、親になる』 / 山崎ナオコーラ

産後ケア施設の本棚に置いてあり、手を付けたはいいものの滞在期間中に読みきれなかったので、帰宅後に改めてゆっくり読んだエッセイ。共感も然ることながら、今の私が直面しているのととても近い生活をこの人の視点から描くとこうなるのか……と新鮮な発見も楽しむことができた。

『じんせいさいしょの』 / おおのたろう

図書館の絵本コーナーに置いてあったとってもかわいい本。子どもよりも親に向けてあかちゃんの可愛さが描かれている。今は「わかる〜〜」と微笑みながら読んでいるが、数年後には懐かしく思い返しながら、数十年後には半泣きで、それぞれ全く違う感情で読むことになるような気がした。

『赤ちゃんと一緒に楽しむ あそびアイデアBOOK』 / 開一夫
『生後すぐからできる 赤ちゃんの筋トレあそび』 / 川島智世

たくさん遊んであげたいけれど首が座っていないうちは不安もあるので、どういう動きが適しているのかを知るために読んだ。まだよく見えていないはずの目で追視するとか、誰に教わるでもなく歩くような動きをするとか、日々著しく成長する子にさらなる刺激を与えるべく手を替え品を替え遊んでいる。

良かった絵本。

『うし』 / 内田麟太郎・高畠純

子が新生児のうちから興味を示した(ちょっと見つめた)初めての絵本。白黒の絵が紙いっぱいに描かれていて、コントラストがはっきりしているものしか見えない時期でもいい刺激になるみたいだった。最初の一ヶ月くらいはうしばかりを見せていた。

『もいもい ぬのえほん』 / 市原淳・開一夫

お友達にもらった絵本というかおもちゃというか、仕掛けがたくさんあるぬのえほん。なんと洗える。子はパリパリした音に反応してくれるので、毎日これで遊んでみている。

『専門家と作ったスキンシップ絵本 ぎゅ』 / はるな檸檬・山口創

図書館で見つけた。このスキンシップ絵本シリーズは親にとっての初めての絵本にぴったりで、何回か繰り返すと自然とスキンシップのとりかたを理解できるようになっている。こちょこちょに反応してくれる頃には自然とこういうコミュニケーションが出来るようになっているといいな。

来月から夫は仕事に戻り、子とふたりの時間が増える。また、愛すべき新しい生活が始まる。